設計者の発言

業務システム開発とデータモデリングに関する語り

システム統一を「自治体への強制」なしで進めるには

 現在の自治体システムの標準化は期限つきで進められている。当初に予定されていた2025年度末までに間に合いそうにないので期限を遅らせるための検討がなされているが、そもそも期限つきで強制するのはおかしい。自治体は個別の事情に合わせて独自の判断で標準化を受け入れ、進められるようであるべきだ。

 強制されないなら標準化など進まないではないかという心配はご無用。1700個の自治体システムを比較的短期間で標準化(統一化)するための良策がある。「導入に伴うコスト削減」だ。

 韓国では自治体システムの統一化が2003年に完了したが、導入が強制されたわけではなく、各自治体が個々にコスト削減を狙った結果である。じっさい自治体システムの維持コストは、導入前の6分の1に削減された。韓国の自治体数は232なので、1741の日本ではそれ以上の削減効果を期待できるだろう。ようするに、自治体にとってシステム維持コストの削減が求められる限り、統一化は自動的に進むのである。

 これを成功させるためのカギは3つ。統一システムの開発、各自治体の自発性、システム維持コストの透明化だ。それぞれを説明しよう。

1.「標準化」ではなく「統一化」を

 まず、国または自治体連合が「単一の標準システム」を開発する。現在のように、国が標準仕様を定め、それぞれの自治体がそれに合わせてシステムを改修するようなやり方ではまるでダメ。関係者の話によると、国は当初は「統一化」を謳っていたが、いつの間にか「(各ベンダーによる個々のシステムの)標準化」に改変されたという。大手ベンダーの意向が悪い形で反映されたとしか思えない。

 「単一の標準システム」といっても、構成はやや複雑だ。住民情報(戸籍を含む)や法人情報を扱う基本モジュールは単一のものとなるだろうが、ある種のモジュールは、たとえば政令市と一般市向けの異なる選択肢があっていい。各自治体はそれらの「共通モジュール」と「選択モジュール」とを組み合わせて標準化を進める。

 それらのモジュールが、フィージビリティ(実現可能性)に欠けた「絵にかいた餅」であってはいけない。現在公開されている標準仕様はどの自治体も導入したことのないものなので、本当に上手く機能するかどうかわからない。自治体や納税者にそんなバクチをさせるべきではない。各モジュールは、パイロット自治体(規模の異なる自治体からいくつか選定する)に先行導入して安定稼働しているものであるべきだ。

2.自治体の自発性にまかせた導入

 統一システムの導入について期限は切らないし、そもそも強制するようなことはしない。導入するのであれば、各自治体は自分たちで決めたスケジュールで各モジュールを順次導入すればよい。たとえば札幌市はベンダーと長期契約を結んでおり、満了前に標準化が完了すれば高額な違約金を払わねばならない。そういった個別の事情にもとづいて、各自治体は現実的な計画を立てたらいい。

 モジュールを順次導入するのは、ビッグバン方式ではリスクが大きすぎるためであるが、そのためには既存機能とのインタフェースの作り込みやデータ移行が必要になる。これらの作業を支援するために地場のベンダーはまだまだ活躍できる。そして、彼らにとっても自治体が自由にスケジュールを決定できることには利点がある。

 もし全国一律に期限が決められたら、特定ベンダーに発注が集中してリソースが足りなくなるのは明らかだ。各自治体はベンダーと相談しながら、無理のない導入計画を作ればよい。なんのかんのいっても公共システムに特化しているベンダーの協力なしでは、自治体システムの標準化は難しいからだ。

3.システム維持コストの透明化

 「導入に伴うコスト削減」のための3つ目のカギは、全自治体のシステム維持コストの透明化だ。計上されたコストの内訳や支払明細が毎年公開されることで、自治体間のある種の競争が生じる。

 すなわち、同規模の他の自治体と比べて割高の場合、首長はその理由を議会で説明しなければいけない。統一システムでコスト削減できない理由が自治体のなんらかの特殊性ゆえだとしたら、その特殊性が高額な住民税で毎年維持される価値があるかどうかが問われる。「その特殊性とやらは役所が勝手に持ち込んだことで、住民はそれゆえの利益や利便性を得ているわけではない。とっとと統一システムでコスト削減すべきだ」といった批判に応えなければいけない。

  その意味で、コストがかえって増えると予想されている現在のやり方は致命的といえる(自治体システム標準化、ガバクラ移行で運用コスト2~4倍に悲鳴「議会に通らない」 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com))。これでは何のために標準化を進めているのかわからない。誰も得しないどころか皆が損するばかりだ。

 

 それにしても本来、標準自治体システムの仕様は草の根的に構想されるべきなのだと思う。大事なのは、自治体システムが「われわれの暮らしや生業(なりわい)を支えるインフラ」であり、「行政が住民を監視するためではなく、住民が行政を監視するための仕組み」という認識だ。自分たちのことは自分たちで決めたい。自治体システムのあり方も、各自治体や住民が知恵を出し合って決めたらいい。国にまかせておいたら、上述したような歪みが生じてロクなことがない。国にはせいぜい費用の一部くらいを出してもらえばいい。そういう意味でも我々は、国が主導する自治体システムの合理化から目を離してはいけない。

 

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