設計者の発言

業務システム開発とデータモデリングに関する語り

国が「行政データベースの統合」を避けたがる理由

 自治体職員兼行政研究家である岩崎和隆氏が「真っ赤なバツを付けられても子や孫のための統一行政システムはつくれる(日経xTECH)」で大変重要な指摘をしておられる。2008年3月6日の最高裁判所判決(住基ネット判例)は、行政データベースの統合を禁止しているわけではない、という考察だ。

 判決文の中に「現行法上、本人確認情報の提供が認められている行政事務において取り扱われる個人情報を一元的に管理することができる機関又は主体は存在しない」というややわかりにくいくだりがある。これが行政関係者に「住基ネット判例はデータベースの一元化を禁止している」という共通理解を生じさせた。

 ところがこれが勘違いであると岩崎氏は言う。詳しくは記事を読んでほしいのだが、ようするに住基ネット判例は「行政事務として個人情報を一元的に把握するような操作をしてはいけない」と言っているのであって、データベースの構成方法に関してはいかなる制約も求めていないという指摘だ。

 そうであれば、デジタル庁が2026年3月25日に示した資料(上掲)で大袈裟な「真っ赤なバツ」がつけられている一元管理の方針は、ことさら避けるべきものではないということになる。必要であればやればいいし、必要ないならやらなければいい。

 ではじっさいのところ、行政データベースの一元化(統合化)は必要なのだろうか。これはもう議論の余地なくイエスである。1,700基ある個性的な自治体システムや、法務局の拠点(本局、支局、出張所)別の300基の個性的な戸籍管理システム(注)は、電子政府システムとして(論理的に)1個に統合されるべきだ。住民の利便性を向上させ、なによりも諸掛を激減させて高止まりする国民負担率を下げるためだ。このことの重大性に比べたらクラウド云々など些末な問題でしかない。

 邪推かもしれないが、「住基ネット判例はデータベースの一元化を禁止している」という言説は、デジタル庁にとってある意味で都合がよかったのではないだろうか。この前提のおかげで、統合自治体システムの設計に挑む必要がないからだ。その仕事を担えるIT技術者はそうそういるわけではない。現状に沿ってデータ連携様式を定める作業に比べたら難易度は1桁上がる。最高裁判決は、この偉業に挑戦せずに「サービス指向でデータ連携」という無理筋でお茶を濁すための、好都合かつ強力な根拠であったのかもしれない。しかしそれが特定集団内だけで共有されていた勘違いだったとなれば、上掲図の真っ赤なバツの意味がわからなくなる。

 以前の記事で筆者が、デジタル庁のデータアーキテクトに応募して面接審査で落とされた話を書いた。その面接で強調したのはまさに、統合データベースの必要性とそれを実現するための具体的なデータモデルであった。今ならわかる。朗々と語る私の提案に面接官は「真っ赤なバツ」をつけたのであろう。

 

注.法務局はシステム統合にむしろ積極的で、土地登記や法人登記のシステムについてはほぼ統一化を完了している。統一化が進んでいないのは戸籍管理システムで、氏名の異体字問題が足を引っ張っているようだ。これに関してはあらためて取り上げたい。