設計者の発言

業務システム開発とデータモデリングに関する語り

Modelerの学習用動画と新刊のお知らせ

 IT勉強宴会の幹事である佐野氏が、X-TEA Modelerの学習用YouTube動画を作ってくれた。全3回でそれぞれ短めなので視聴しやすいと思う。

「X-TEA Modelerの使い方」IT勉強宴会

 これを観ながら、この種のモデリングツールはようするに「制約の多い楽器」なのだと思わされる。「制約の少ない楽器」が何かというと"声"であるが、これに相当するツールはPaintやVisioのような"お絵かきツール"だ。いっぽうシステム設計に特化したツールでは、さまざまな制約が盛り込まれている。たとえばX-TEA Modelerでは、テーブルの配置ルールが厳格に決められていたりする。またテーブル関連を張る際には、対応するフィールドのデータタイプが一致していなければいけなかったりする。

 しかしそういったこまごました制約は、システム設計を手早く肉体化するための仕掛けという側面もある。慣れるまではイライラさせられるだろうが、楽器の学び始めと同じく受け入れるしかない。まずは楽器の音域や構造上の制約を理解して、それに体を慣らせるために退屈な指運やエチュードを繰り返す。楽典(楽譜の表記法)も学ぶ必要がある。

 しかしいったん慣れてしまえば、俄然豊かな世界が広がる。その楽器向けに書かれた楽譜を使って、さまざまな曲を演奏して楽しめるようになる。X-TEA Modelerのサイトからは、さまざまなシステム設計事例をダウンロードできる。多くのシステム開発者にとって絶望的に欠けているのは、本格的かつ膨大な設計事例を「鑑賞」する機会である。それを無料で享受できるのだから、多少苦労しても学ぶ甲斐がある。

 じっさいのところ、ExcelVisioのような汎用ツールで書かれた設計書をいくら読み込んでも、システム設計の勉強にはならない。開発会社が抱えるそういった資料からは、案件の全貌が読み取りにくいうえに、案件固有のノイズが多く含まれているので学習の歩留まりが悪すぎる。使いやすい教材であるためには、効果的な様式が与えられ、かつ、ある程度抽象化される必要がある。何よりも、学習者が設計書どおりにシステムを動作できなければいけない。

 ツールが要求するさまざまな制約と用例に慣れ、かつそれが与えてくれる教材を使い倒した後の課題は、「自分の作品」を生み出すことだ。その際に大事なことは、生み出したいシステム定義の構想があるかどうかである。よく言われるように、心から弾きたくて弾きたくてしょうがない曲があれば、楽器は自然に上手くなるものだ。同じように、自分なりの設計課題があれば、モデリングツールの扱いもモデリングそのものの上達も早い。けっきょくは「その道具を使って生み出したいと切実に望んでいる何か」を持っているかどうかが鍵なのである。

 いいタイミングで、12年ぶりの新刊『システム開発・刷新のためのデータモデル大全 』日本実業出版社)も発売される。新型コロナで閉じこもりがちな日々、これらを活用してシステム設計のスキルを身につけてほしい。